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● ローズマリ・サトクリフ Rosemary Sutcliff
1920年12月14日英国サリー州生まれ。1992年7月23日没。
イギリスの歴史小説・ファンタジー小説作家。

2歳の時にかかった病気が元で一生、自由に歩き回れない生活を送った。
14歳の時に学業を離れ、画家を志して1935年にビドフォード美術学校に進み、細密画家となったが、細密画家であることに苦痛を感じ、手近にある紙に彼女は物語をつづり始める。
こうして書いた作品は偶然、オックスフォード大学出版局に渡り、その後出版局から来た手紙の誘いに応じ、『ロビンフッドの物語』を書き、1950年に処女作となった『エリザベス女王物語』と同じ年に出版。

文筆家としての本格的なキャリアを積み始めたのは、1959年からで、この年には、『ともしびをかかげて』(The Lantern Bearers)でカーネギー賞を受賞。以降、英国トップレベルの児童文学の書き手の一人とされている。

1975年には、大英帝国勲章のOBEが、1992年にはCBEが贈られている。

主な著書:『ともしびをかかげて』(The Lantern Bearers)、『アーサー王と円卓の騎士」』(The Sword and the Circle) などケルト神話やギリシア神話を元にしたもの、ケルトの民族やイングランド地方の話などが多い。
ローマン・ブリテン四部作 ベーオウルフ ケルトとローマの息子
第九軍団のワシ 闇の女王に捧げる歌
銀の枝 トロイアの黒い船団
ともしびをかかげて 落日の剣
辺境のオオカミ アネイリンの歌
第九軍団のワシ ―ローマン・ブリテン四部作
The Eagle of the Ninth (1954)


第九軍団のワシ
  • 猪熊 葉子 訳
  • 岩波書房
  • 発行 : 2002/10
  • ISBN:978-4-00-114579-3
  • 四六判 / 160p
銀の枝 ―ローマン・ブリテン四部作
  • 井辻 朱美 訳
  • 原書房
  • 発行 : 2002/10
  • ISBN:4-562-03545-5
  • 四六判 / 160p
ともしびをかかげて ―ローマン・ブリテン四部作
  • 猪熊 葉子 訳
  • 岩波書房
  • 発行 : 2002/10
  • ISBN:4-562-03545-5
  • 四六判 / 160p
辺境のオオカミ ―ローマン・ブリテン四部作
辺境のオオカミ
  • 猪熊 葉子 訳
  • 岩波書房
  • 発行 : 2002/10
  • ISBN:4-562-03545-5
  • 四六判 / 160p
アネイリンの歌
contributorLeon


アネイリンの歌―ケルトの戦の物語 (Y.A.Books)
  • 山本 史郎
    山本 泰子 訳
  • 原 書房
  • 発行 : 2002/12
  • ISBN:
    4-562-03568-4上
    4-562-03569-2下
  • 四六判 / 445p上 410p下

最後のローマ軍団が撤退した5世紀のブリテン島に、好機とばかりにサクソン人達が海を渡り大挙して侵入してきた。
これに対抗するため、複数の小国に分裂していたブリテンを纏め上げたアンブロシウス王だったが、彼はまた、サクソン人の侵攻は引きも切らぬ波のようなものであることに気付いていた。

ただ、ローマ=ブリテンの文明の灯を絶やさぬがためにという一念の想いは、彼の甥である<大熊>ことアルトスにも受け継がれる。

かつてのローマ軍団が保有していたような騎馬部隊こそ今のブリテンにとって最も必要であると考えたアルトスは、僅かな部下を引き連れてガリアに渡った。

重装備の騎兵を乗せ、かつ自らも戦える軍馬を育成するためには、大陸産の大型種の種馬が必要だったのだ。

セプティマニアで催されている馬市で所望の種馬を手に入れたアルトスは、それらの馬と同様に彼の<騎士団>にとって欠くことの出来ない存在となるペドウィルをも見出した。

ガリアの種馬を元として増える軍馬に併せて、アルトスの<騎士団>もまた次第に増強され、遂にはサクソン人に決定的な打撃を与えるべくバドン山の麓で決戦の火蓋が落とされるのだが・・・


本書は、アーサー王伝説の骨幹のみを残して、後の時代の修飾と思われる部分をそぎ落とした一部架空の歴史小説であり、マーリンや湖の貴婦人といった幻想的な登場人物などは排除されている。

伝説の中での英雄王アーサーは、バドン(ベイドン)山の戦いでサクソン人の侵略を退けブリテンに平和な時代もたらしたとされているが、本書の主人公アルトスもまた、一時的にではあるにせよ平和なブリテンを実現すべく遠征に次ぐ遠征に明け暮れる。

彼を突き動かすのは、キリスト教に影響を受けた騎士道精神などではなく、ローマ帝国領時代の繁栄を知る者として絶やしてはならじと考えている文明の灯を守る義務感なのだが、このような登場人物の造形以外にも著者の歴史に対する知識の深さが随所で見て取れるのが本書の面白みの一つだ。

例えば、<騎士団>はその習いとして、兜や鎧の留め金に徽章となる何らかの花を付けることになっているのだが、ベドン山の会戦に際してアーサーが選んだ花はフランスギク(マーガレット)だった。

著者はこの何気ない一場面にとても多くの意図を込めている。

フランスギクは聖母マリアに捧げられた花の一つとして象徴性を持つらしいのだが、後の史籍の中においてはベドン山の戦いに赴いたアーサーの甲冑に聖母マリアの意匠が施されていたとされている。

おそらくは修飾されているであろう現代に伝わる華美な装束を、歴史的な眼力で剥ぎ取ってリアルなアーサーの姿を現出させているばかりか、更にフランスギクが古い神々の一柱である<白い女神>の象徴であったことにも目をつけ、キリスト教化過渡期の複雑な時代に部族や宗教の差を越えてリーダーシップを発揮した”実在のアーサー像”に見事に迫っているのだ。

未だに様々な翻案や映像化が試みられ続けているアーサー王伝説だが、それというのも、その中に物語のエッセンスが凝縮されており、時の変遷によっても変わることのない人間の魂の琴線に触れるものがあるからだろう。

そのような物語の命脈を損なうことなく、見事に歴史小説化した本書に、著者のアーサー王伝説への愛着と、引いては自らの生国に対する強い愛情が感じられた。
ベーオウルフ ―妖怪と竜と英雄の物語
BEOWULF Dragon Srayer


  • 井辻 朱美 訳
  • 原書房
  • 発行 : 2002/10
  • ISBN:4-562-03545-5
  • 四六判 / 160p
 帯にこのような文章が…
「『指輪物語』の英雄たちは、アラゴルンにせよ、セオデンにせよ、みなベーオウルフの面影を受け継いでいる。-トールキンが愛したイギリスファンタジーの傑作」


イェーアト王の妹の甥であるベーオウルフは、父エッジセーオウの恩人であるフロースガール王の国に「夜陰の死の影」グレンディルが出没したという話を聞く。今こそ恩を返す時が来たと、仲間とともにフィヨルドの海を越え、デネ国へ向かう。
 仲間の一人が犠牲になる中、決して剣では戦う事の出来ない強固な皮膚を持つグレンディルを相手にベーオウルフは素手で戦う。息詰まる死闘の末グレンディルは引きちぎられた体でデネの宮殿から瀕死の状態で塒に帰り、絶命する。
 しかし、この妖怪には母親が居た。昨晩の我が子の血痕を頼りに母親は復讐のためにグレンディル討伐に祝杯をあげて安眠するフロースガール王の宮殿に向かい、惨殺の限りを尽くす。
 朝、惨劇を知ったベーオウルフの戦いが再び始まる。子グレンディルとの戦い以上の苦戦を強いられるが、最後はドワーフが巨人族との戦いのために鍛えた大剣よって勝利する。

 時は流れ、若き日のグレンディルとの戦いから数十年が経過し、伯父王亡き後の故国を担う老ベーオウルフ。
 太古の宝を守って眠っていた竜と偶然出くわしたある卑しい男が竜の眠る隙に宝を掠め取る。それを知った竜は怒り、町や村を炎を吐き炎上させる。
 老ベーオウルフは数人のセインとともに火竜討伐に行くが、他のセインは恐れ逃げ、ベーオウルフと唯一人の若き従者が竜と向き合う。この戦いでベーオウルフは竜と刺し違えるが、彼は国たみのために財宝が手に入った事を喜び、妻も子も無かった1代の英雄は共に竜の巣へ踏み行った若き従者に国の行く末を託し息絶える。


エピソード自体は少ないが根底に流れる北欧のトーンと、きらびやかな英雄伝説ではない翳りのある風景が魅力的。
 自らが王の嫡男で冒険の旅で勲を挙げるという類のものではなく、控えめで自制的な英雄が描かれている。
 訳の好き嫌いが分かれるような気もするが、馴れないとなかなか読みづらい叙事詩が出しゃばり過ぎないサトクリフの解釈によって自然な感覚でスカンディナビアのかつての空気を体現出来る。


ベーオウルフ
contributor KEN-G 

井辻朱美女史の「アラゴルンにせよセオデンにせよ~」云々.
素直に納得です.
おごらず,たかぶらず,だが力にあふれ侮辱には機知と毅然とした態度で臨み,根に持たない.・・・アラゴルン性を持つ若年期.
国民を思う心根と,刺し違えることを恐れず,覚悟して望む
セオデン性をもつ晩年.死する時に血脈どうこうではなく国のためになる人間に後を託す姿もまたよし.

おしむらくは元来の叙事詩がそうなのか,人物描写が淡々として苦悩が見えない.古典の英雄はなやまなすぎるよね.だからこそ英雄なんだろうけど.

ところで竜の黄金好きは英雄譚の定番なのか?
闇の女王に捧げる歌
Song for a Dark Queen


  • 乾 侑美子 訳
  • 評論社
  • 発行 : 2002/12
  • ISBN:4-566-02086-X
  • 四六判 / 267p

紀元60年頃、現在のイングランド・ノーフォーク周辺を治めていたイケニ族の女王ブーディカの物語。
 その誇り高く激しい生涯を、女王お付きの吟遊詩人が読者に語りかける。

 イケニ族は「馬の民」であり、優秀な馬を育てることで知られている。
また代々女王を頂き、王の存在価値は女王あってのものだった。
 ケルトの他民族との紛争を避け、時には戦ってわが土地と血を守り続けて来たが
「大いなる水」の向こうから大国ローマが押し寄せてくる。
 女王ブーディカは幼くして母と死別し、孤独な幼少時代を過ごした。そんな彼女に常に付き従い竪琴弾きカドワンは枝で作った剣を贈り、いつかは女王のために大いなる歌を歌うことを約束する。

 時が流れ、僧の決めた夫プラスタグス王とは短いが深い愛情に包まれて生活している頃、ローマの軍靴がすぐ近くまで押し寄せてきていた。
 女が王であることを認めないローマはプラスタグスと折衝を頻繁に持つ。王は屈辱に耐え、妥協を重ねながら揺らぐ屋台骨を支えてきた。しかし、そのプラスタグスも病死する。それを聞くや、外堀を埋めたローマがこの「蛮族」を我が手に落とそうとやってくる。

 ブーディカは復讐を誓う。ローマによって刀狩りされた後も、密かに隠し持っていた人々の僅かな武器を寄せ集め、以前敵対していた種族とも手を結び、ケルト民族が一斉蜂起して行く。
 当時既に職業軍人が存在し、戦術も戦略も確立されたローマ正規軍に対抗出来る訳がないのだが、このブーディカの叛乱(ローマ側からのもの言いだわね)によって正規軍は壊滅状態にまで追い込まれた。


物語では無い本でこの時代について少々目にしたことはあったが、背景にした物語はこれが初めてだったと思う。
 初読の際、恥ずかしながら、ローマ側の視点に立った書籍しか読んでいなかった事に気づき、何となく後ろめたい気分になったのを覚えている。
 ケルト民族にとってブリテンという言葉も、それはローマの言葉であり、同じケルトの中でも多くの種族が自治する国々から成り立っていたということも初めて知ったし、私にとってこの本は、ケルトについてもっと知りたいと思うきっかけを与えた一冊だった。

  ブリテン属州官(占領軍)が夫王亡き後のブーディカの館で行った蛮行の数々は目を覆いたくなるような凄惨な描写が描かれているが、他民族・他国家が蹂躙して行く姿は、概ねこのようなものであっただろうと想像がつく。 兵器や戦法・目的こそ違えど、時代が変わっても太古から戦争・侵略というものの姿は変わらない、とつくづく思ってみたりする。
 生命を奪うことはどんな大儀であれ許されるものではないと思うが、土着民族の文化を根絶やしする行為は淘汰と呼ぶには余りに過酷な存在の死であるように思う。

 因みにテムズ河畔に戦車をひくブーディカ像が建っており、ニューマーケット競馬場の土累はブーディカ軍が築いたもののようです。
トロイアの黒い船団  ―ギリシャ神話物語 上
Black Ships Before Troy


  • 山本 史郎 訳
  • アラン・リー 絵
  • 原 書房
  • 発行 : 2001/10
  • ISBN:4-562-03430-0
  • 四六判 / 227p

神々と人が未だ交わりを持っていた時代、ペレウス王が海の精テティスと結婚した。
婚礼の席にはオリュンポスの神々も参列していたが不和の女神エリスだけは呼ばれてはいなかった。
 エリスは復讐のため婚礼の宴に現れ、黄金のりんごを卓の上に置いた。『最高に美しきものへ』というメッセージを添えて。
同席していたヘラ・アテネ・アフロディテの3人の女神がリンゴの所有を巡って争いを始める。

 エーゲ海北東沿岸にプリモアス王の治める裕福なトロイアという国があった。
丁度リンゴの不和が生じた頃、プリモアスと妃ヘカベの間に末の息子パリスが生まれた。
 占い師たちはパリスは焚火を熾す燃え木であり、トロイアを焼き滅ぼすと予言する。
王は生まれたばかりの末の息子を密か荒野へ捨てさせた。

 時は流れ、相も変わらず黄金のリンゴを巡り「最も美しいのは誰か」という争いをしていた件の女神たちにイデ山の斜面で牛を追う美しく力強い青年に目がとまった。女神たちは青年の前にリンゴを落とし、このリンゴの所有者に相応しい、最も美しい者は誰かと問う。
 ヘラは私を選べばとてつもない富と権力・名誉を与えると約束する。
 アテネは最高の叡智を与えることを約束。そして最後のアフロディーテが自分に劣らぬ美しい妻を差し上げようと微笑んだ瞬間、青年は妻である全ての傷を癒す森の精オイノネの存在も忘れ、3番目の女神が最も美しいと認めた。
 誰あろう、この牛飼いの青年こそ荒野に捨てられたトロイアの末の王子パリスだった。
~いわゆる『パリスの審判』である。

 アフロディテは約束を果たす計画を進める。プリモアスの家来に牛を襲撃する考えを吹き込む。
 パリスの牛も襲われたために牛を求めて丘を降り、トロイアまで来たとき、母ヘカベはパリスを見つけ、その見目麗しい青年が死んだ筈の我が子であることを確信する。
生きて再会できたことへの歓びの余り、予言のことも忘れパリスに屋敷を与えた。
 パリスは屋敷で暮らしながら時々愛するオイノネの森に出かけて行き、幸福な時は過ぎて行く。しかしそれも束の間、ギリシャのメネオラスの妻ヘレネの美しさの噂を聞き及び、パリスは一目見ようと、臣下と船に乗り出す。
 一目で恋に陥ったパリスとヘレネはメネオラスの目を盗み、駆け落ちする。
 怒るメネオラスはヘレネ奪回のため、トロイアへ宣戦布告。リンゴの賭けに敗北した女神アテネはギリシャ側へつく。
 こうして人と神々の戦いが始まった。


ホメロスの「イリアス」をオリジナルとしているが、原典では描かれていない戦争終結部分(アキレウスの死、トロイアの木馬、トロイアの陥落)までのトロイア戦争の全貌を1冊でコンパクトに判りやすく描かれている。
 「イリアス」に限らず歴史物の原典は如何せん読みにくいし、1冊では目的の歴史上のエピソードが全て判るという訳でもない。
サトクリフの平易かつ優美な味付けは、身近に古典を鑑賞できて有難い。

 終盤、抜き身の剣を携えたメネオラスにヘレネを匿うオデュッセウスが約束を履行させる件、メネオラスが彼との約束のためとはいえ、
剣を収め、憐れみをもって裏切った妻を見つめるシーンは美しい。
 因みに美しい挿絵はアラン・リーの手に拠るもの。本書の挿絵でアラン・リーは1993年ケイト・グリーナウェイ賞受賞している。
落日の剣
contributorLeon


上

下
  • 山本 史郎
    山本 泰子 訳
  • 原 書房
  • 発行 : 2002/12
  • ISBN:
    4-562-03568-4上
    4-562-03569-2下
  • 四六判 / 445p上 410p下

最後のローマ軍団が撤退した5世紀のブリテン島に、好機とばかりにサクソン人達が海を渡り大挙して侵入してきた。
これに対抗するため、複数の小国に分裂していたブリテンを纏め上げたアンブロシウス王だったが、彼はまた、サクソン人の侵攻は引きも切らぬ波のようなものであることに気付いていた。

ただ、ローマ=ブリテンの文明の灯を絶やさぬがためにという一念の想いは、彼の甥である<大熊>ことアルトスにも受け継がれる。

かつてのローマ軍団が保有していたような騎馬部隊こそ今のブリテンにとって最も必要であると考えたアルトスは、僅かな部下を引き連れてガリアに渡った。

重装備の騎兵を乗せ、かつ自らも戦える軍馬を育成するためには、大陸産の大型種の種馬が必要だったのだ。

セプティマニアで催されている馬市で所望の種馬を手に入れたアルトスは、それらの馬と同様に彼の<騎士団>にとって欠くことの出来ない存在となるペドウィルをも見出した。

ガリアの種馬を元として増える軍馬に併せて、アルトスの<騎士団>もまた次第に増強され、遂にはサクソン人に決定的な打撃を与えるべくバドン山の麓で決戦の火蓋が落とされるのだが・・・


本書は、アーサー王伝説の骨幹のみを残して、後の時代の修飾と思われる部分をそぎ落とした一部架空の歴史小説であり、マーリンや湖の貴婦人といった幻想的な登場人物などは排除されている。

伝説の中での英雄王アーサーは、バドン(ベイドン)山の戦いでサクソン人の侵略を退けブリテンに平和な時代もたらしたとされているが、本書の主人公アルトスもまた、一時的にではあるにせよ平和なブリテンを実現すべく遠征に次ぐ遠征に明け暮れる。

彼を突き動かすのは、キリスト教に影響を受けた騎士道精神などではなく、ローマ帝国領時代の繁栄を知る者として絶やしてはならじと考えている文明の灯を守る義務感なのだが、このような登場人物の造形以外にも著者の歴史に対する知識の深さが随所で見て取れるのが本書の面白みの一つだ。

例えば、<騎士団>はその習いとして、兜や鎧の留め金に徽章となる何らかの花を付けることになっているのだが、ベドン山の会戦に際してアーサーが選んだ花はフランスギク(マーガレット)だった。

著者はこの何気ない一場面にとても多くの意図を込めている。

フランスギクは聖母マリアに捧げられた花の一つとして象徴性を持つらしいのだが、後の史籍の中においてはベドン山の戦いに赴いたアーサーの甲冑に聖母マリアの意匠が施されていたとされている。

おそらくは修飾されているであろう現代に伝わる華美な装束を、歴史的な眼力で剥ぎ取ってリアルなアーサーの姿を現出させているばかりか、更にフランスギクが古い神々の一柱である<白い女神>の象徴であったことにも目をつけ、キリスト教化過渡期の複雑な時代に部族や宗教の差を越えてリーダーシップを発揮した”実在のアーサー像”に見事に迫っているのだ。

未だに様々な翻案や映像化が試みられ続けているアーサー王伝説だが、それというのも、その中に物語のエッセンスが凝縮されており、時の変遷によっても変わることのない人間の魂の琴線に触れるものがあるからだろう。

そのような物語の命脈を損なうことなく、見事に歴史小説化した本書に、著者のアーサー王伝説への愛着と、引いては自らの生国に対する強い愛情が感じられた。
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