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佐藤 亜紀 AKI SATOH

1962年9月16日―新潟県栃尾市(現長岡市)出身。
1988~89年にロータリー財団奨学金でフランスに留学。
1991年『バルタザールの遍歴』で第3回日本ファンタジー大賞を受賞してデビュー。
2003年『天使』で芸術選奨新人賞を受賞。
その他の著書に『モンティニーの狼男爵』『1809』『検察側の論告』などがある。
夫は佐藤哲也(小説家)。
公式サイト:新大蟻食の生活と意見

鏡の影

STORY

 野卑な兄弟の中にあって異端であったヨハネスは、聖堂参事会員を務める僧である叔父の許で学僧として生活を始める。
 叔父の手許には生涯を賭けた答え「大いなる秘義」が記された本が一冊あった。ヨハネスはその書の内容を目にすることに次第に取り憑かれて行く。
 だが、叔父の自殺後、禁断の書を手にした彼はそこに何も書かれていないただの白紙であることに驚愕し、強烈な怒りと嘲りに駆られながら真実を求めて出奔する。

 ある時、抜歯の悪化により死線を彷徨う中、ヨハネスは美貌の少年シュピーゲルクランツと出会い、助け出される。
 シュピーゲルクランツとゲーテの「ファウスト」さながらの契約し、両者はそれぞれの目的成就を秘めて危険な遍歴を続ける。

 奸計に満ち、冤罪を負わせられ、逃亡しながらもヨハネスは終ぞ「世界を変える真実」を手に入れる。
 だが終盤、シュピーゲルグランツの手を退け、「知」ではなく「肉」あるいは「情愛」の契約を結んだヨハネスは命は救われはするが己が苦難の中で見つけた全てを、それまでの彼同様、世界の有り様を知りたいと願う者に手渡す結果となる。

 しかし、あろうことかその人間が手にした途端、往時の叔父の一冊の本のように、それはただの白紙になった。

REVIEW

 「鏡の影」というと反射望遠鏡の鏡面を研磨するときに用いられるフーコーテストというものを思い出す。

 舞台はドイツ。時は16C初頭まさにルター派プロテスタントとカトリックに分裂し、ガリレオらが異端尋問にかけられていたあの時代であると思われる。
 モチーフは真新しいものでもないし、奇蹟の出現やイタリアのサヴァローナの焚書をモデルとしたであろう箇所、当時のドイツやイタリアの放逸な農民の姿や腐敗した教会組織・宗教的狂信者の姿は、確かに何処かで見ている。
 だが作者の独特の修辞を凝らした文体に因って、咀嚼に時間がかかるが、暗く沈鬱な時代の空気感から、眩い魂の遍歴までまるでバロック音楽が視覚化されたような具合で流れていく。

 最後にこれは読んだ人に。
「ベアトリクスの処女懐胎」にはどういう意味があるか…ご意見下さい。

  • 鏡の影
  • 鏡の影 (講談社文庫)
  • 鏡の影

ブッキング
発行: 2003/12
ISBN: 4-8354-4070-6
B6判 / 336p
1993年新潮社初版の再刊

*真偽のほども明確とならないまま、盗作問題を発端に不幸にも二度の絶版に会うという履歴を持つ。 2003年復刊ドットコムによって、読者の手によって新しく世に出ることに。 何ともこの本は内容を地で行った…という感じ。現在は講談社に版が移譲されている様子。

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雲雀

STORY

「天使」の姉妹本。初出年はこちらが後。
4編のエピソードからなる。

「王国」

 オットーとカール・メニッヒ兄弟はオーストリア軍の塹壕で三年を過ごしていた。
ある日何故か自軍に捕えられる。二人は脱出して無人となった前線を突破するのだが、不思議な場面に遭遇する。

「花嫁」

 19世紀末ウクライナ。馬泥棒の倅グレゴールは親父の影響で悪の道に手を染めるが、自分の才能を知り抜き、しがない小悪党集団の親父らと袂を分かつ。
独自に密輸業で成功するが、ある日、町でヴィリという名の女と出会う。強烈に惹かれるものの、女には夫と息子がいた。

「猟犬」

 1921年のハンガリー。退位したハプスブルク家のカール一世はハンガリー王の地位を狙いクーデターを画策。
ジェルジュはそれに呼応する内部の動きを封じるために、単身ブダペストへ派遣される。
だがブダペストでは一人以上の敵がそれぞれの仕方でジェルジュを迎え、狂犬の異名を持つ男によって、かつてない危機に陥る。

「雲雀」

 表題作。件の顧問官はすでに他界。組織は過渡期を迎えていた。
ジェルジュは組織を離れ、若かりし頃に一度封印した感情を解き放つ。愛する女には夫があった。その夫とは…。

REVIEW

 私はこちらを読んでから「天使」を読んだため、「雲雀」に収録される各エピソードの不可解さや些細と思われる道具仕立てがパズルピースが合わさるように符合していくのを味わい、格別面白味が増した。
 という訳で「雲雀」の読後に「天使」読んでも面白い。
 4編ともに、天使で登場する主要な人物が活躍する。
 お気に入りは『花嫁』と『猟犬』。
 『花嫁』では、かのジェルジュの出生が判るエピソード。倅も倅だが、親父はそれ以上スゴい。短いが後を引く佳作。
 『猟犬」は、「あの男」が手負いで追い込まれ、敗走する。芳醇な日本語の文章中、唯一ハードな感覚が愉しめる。
エンターテイメントな1冊。

  • 雲雀

文藝春秋
発行: 2004/3
ISBN: 4-16-322750-4
四六判 / 234p

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天使

STORY

舞台は19世紀、帝国が崩壊する頃のロシアとオーストリア。
 貧しい辻楽士の養父に育てられたジェルジュは特殊な能力を持っていた。その能力とは他人の思考を読み取り、場合によっては書き換えることのできる能力。その特殊能力を見初められ、オーストリア諜報機関の長「顧問官」と呼ばれる男に拾われる。
 徹底的な管理教育の中、ジェルジュは痛ましいまでに生真面目に、だが高い要求に応えることに快感を感じながら成長して行く。
 やがて、第一次大戦勃発後、ボスニアへ潜入してセルビア民族主義者の陰謀を挫き、大戦末期にはオーストリア単独講和を目指す水面下の動きに深く関わって行く。

REVIEW

 何と言っても、佐藤亜紀の筆力は流石。
 ストーリーは少女漫画よろしく、類稀な才能と早熟な感性を持った美貌の主人公が、歯を食いしばりながら己の力に歓びを見出す少年期から、その能力を以て諜報活動を軽やかにこなしていくカッコイイ男となる成長物語だったりする。
意外な展開もなく、第一次大戦前後の背景についても、「陰謀」しか考えておらず、この時代の持つ雰囲気は表面化しない。臭気すら感じない。だから、時代設定をする意味なんてまるで無い。
だが、魅力的な人物描写であっという間に、惹き込まれる。
知能の高さは己を如何に客観視出来るか、ということが一つの指準になるだろうが、主人公ジェルジュはその類稀な能力を有していても尚、奢りも溺れもせず、拠って立たされ、生かされているものにも無抵抗である。同時に謙ることもしない訳だが、それが究極のナルシシズムにも思えるし、究極の奴隷状態にも思えてくる。なるほど、天使であろうか。

 他の登場人物もなかなか魅力的で、その関係性も淡々とした表面の裏で、込み入った感情が交錯する様が何とも良い。
日本語の技巧が優れているっていう作者だからこその作品。

  • 天使 (文春文庫)

文藝春秋
発行: 2005/01
ISBN: 4-16-764703-6
文庫 / 301p
芸術選奨新人賞受賞作

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バルタザールの遍歴

STORY

 オーストリアのとある貴族の家に生まれたメルヒオール・フォン・ヴィスコフスキー・エネスコは双子だった。
 双子の兄弟の名はバルタザール。彼らは双子だったが、2人でひとつの身体しか持っていなかった。
たった一つの身体に2つの人格が同時に存在している…多重人格とは明らかにちがった彼らを人々は変人扱いした。
 彼らの従兄弟であるマグダレーナだけは彼らが双子であるということを理解してくれていた。財産を使いつぶすくらいに遊びまわる彼らだったが、父の再婚相手ベルタルダと関係を持ち始めたことから彼らの人生は狂い始める。
愛しいベルタルダを追い求めるバルタザールと、彼の兄であるアンドレアス・コルヴィッツを警戒するメルヒオールは口論を繰り返す。そしてメルヒオールの身体は不思議な奇跡を起こし…

ハッピーエンドとは言えない終わり方が何だかとてもいい感じの話。 (小泉正宗)

REVIEW

  • バルタザールの遍歴 (文春文庫)

文藝春秋
発行: 2001/06
ISBN: 4-10-131711-9
文庫 / 346p

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戦争の法

STORY

舞台は1975年の日本。北陸地方のN県は突然ソビエト連邦の援助の下、日本からの独立を宣言する。当時まだ中学生であった主人公…、彼の祖父が経営していた紡績工場は祖父の死と同時に経営不振に陥り、父はやる気をなくし、母と祖母が何とか経営を支える。やがて父は姿を消し、母は工場を酒場に変え、さらには売春宿へと変えていく。その売春宿でちょっとした悪戯をやってのける主人公とその親友であったが、その悪戯が町の権力者の怒りに触れ、彼らは町を追われることとなる。N県と隣県の境のところでソ連軍に見つかった彼らだったが、姿を消してゲリラ相手に商売する闇屋となっていた父親に助けられる。
 やがて彼らは父の知り合いのゲリラ組織に身を投じることとなり、主人公は爆弾を用いた破壊工作、親友は射撃のそれぞれ名手となって、その名を轟かせていく。ゲリラを率いる謎の人物「伍長」の指揮のもと、次々と戦果を挙げていく彼らだったが…

N県が日本から独立を宣言するというところがおもしろすぎる。終盤の主人公の生き方が「バルタザールの遍歴」の主人公達と似ているような気がするのは紹介者だけだろうか?(小泉正宗)

REVIEW

  • 戦争の法 (文春文庫)

ブッキング
発行: 2003/11
ISBN : 4-8354-4064-1
B6判 / 341p
(旧版)新潮社より1992/7刊行

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激しく、速やかな死

STORY

「弁明」

 

「激しく、速やかな死」

 

「荒地」

 

「フリードリヒ・Sのドナウへの旅」

 

「金の象眼のある白檀の小箱」

 

「アナトーリとぼく」

 

「漂着物」

 

REVIEW

 「佐藤亜紀」の名前と表題のインパクトだけで手にとったが、残念ながら期待はずれ。
澁澤龍彦辺りを意識されているのかもしれないけれど。
禁忌やマイノリティ、隠された人物や歴史の真実をこれもまた人の営みである。ここを表現するには美学や雅さがあってよい。品格がなくちゃ単なるゴシップ本だ。
佐藤亜紀には独自の美学や優雅さがあるのに、本書はそれが感じられない。
佐藤亜紀らしからぬ言葉の選択も多く、加えて読んでいて不快さを目の前に曝け出される程の徹底さにも及ばない。

  • 激しく、速やかな死

文藝春秋
発行: 2009/06/25
ISBN : 978-4-16-327230-6
B6判 / 199p

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醜聞の作法

STORY

 

REVIEW

 

  • 醜聞の作法 (講談社文庫)


講談社
発行: 5
ISBN: 

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