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メアリー・ノートン Mary Norton

床下の小人たち |

 床下の小人たち 

contributor
Leon

ロンドンに住む少女ケイトは、同居しているメイおばさんに編み物を習っているのだが、ある日肝心の編み棒を失くしてしまう。
確かに置いたと記憶しているのは本棚の一番下の段

それを聞いたメイおばさんは、ケイトに「借り暮らしの小人」たちのことを話し始める。

メイがまだ子供だったころ、幼い弟が病気の療養のために田舎の屋敷で暮らすことになった。

その屋敷の大時計の下には小さな穴があり、その奥には身長が僅か20センチ足らずの借り暮らしの小人の家族が暮らしていたのだ。

母親のホミリーは、借りたジャガイモの皮を剥くのに、これまた借りた爪きりばさみの片割れを使う。

一人娘のアリエッティは、肖像画の替わりに借りたヴィクトリア女王が描かれている切手を壁に掛けた部屋で、借りた豆本を愛読する。

それらを人間の居住場所から借りてくる、借り物の名手こそは父親のポッドだ。

小人たちは、人間とは自分達を養うために存在しているのだと言って憚らないのだが、本能的に人間達によって「見られる」ことを恐れている。

ところが、初めて父親の借り物の手伝いのために外に出たアリエッティは、旺盛な冒険心が災いして、メイの弟である巨大な男の子に「見られて」しまうのだった・・・

物語はメイおばさんがケイトに話しかけるというスタイルで展開するので、読者は苦も無く物語の世界に入って行ける。

アリエッティと人間の男の子の交流が軸ではあるが、ピンや吸い取り紙など、人間達の生活雑貨を巧みに利用して暮らしている「借り暮らし」の描写が何より素晴らしい。

多くの人が(恐らくは子供の時分に)精密なドール・ハウスを始めて見たときに想像する、「その中に住む人」が作者の豊かな創造力によって具現化されている。

結末は、弟の話を頼りに小人達の棲家付近に行ったメイが「その姿は見えなかったが煮物のにおいがした」という記憶を持つことから、「借り暮らしの小人」が実在したようにも取れるし、そこで見つけたアリエッティの日記の字体がメイの弟とそっくりだったということから、弟が姉のメイをかついだようにも取れるようになっている。

良い物語は結末から先の部分は読者の想像に委ねられることが多いが、私の場合は、男の子に本を読み聞かせていたアリエッティのことだから、字の書き方も教えていたに違いないだろうと思う。

教えたアリエッティが字を間違っていたとすれば、メイの弟もきっと間違えて覚えたに違いないのだから!

この本の中で、小人たちは人間(ニンゲン)のことを「インゲン」と呼称しているのだが、原文での表現を確認したみたところ、"human beans"となっていた。

当然"human being"の訛りなのだが、訳語のセンスの良さに脱帽した次第。
  • 林 容吉 訳
  • 岩波書店 
  • 発行:2000/09
  • ISBN:4-00-114062-4
  • 新書版 / 273p