HOMEジョン・ミルトン John Milton
1608年12月9日 - 1674年11月8日?。イギリスの詩人。
裕福な公証人を父としてロンドンに生まれる。聖ポール学校を経て1625年ケンブリッジ大学のクライスツ・カレッジへ進学。同年チャールズ1世即位。
大学卒業後、定職につかず父の援助を受けてロンドンの郊外に6年間隠棲。その間「コウマス」「リシダス」といった田園詩を作る。1638年から翌年にかけて、 ヨーロッパ各地を周り見聞を深める「グランドツアー」に出かける。この頃から母国語で「叙事詩」を書こうと思い始める。同時期、イギリスでは国王チャールズ一世と議会の政治、宗教を巡る抗争が激化。「清教徒革命」へと発展していく。ミルトンは革命擁護の立場から国王処刑を正当とする「国王と為政者の存在権」「偶像破壊者」を発表。 この年、クロムウェルの外国語担当秘書官という 公職に就き、外交文書を作成する傍ら、共和制擁護者として論争の最前線に立った。
1652年頃、両目失明の悲劇に見舞われる。1658年クロムウェルの急死により政府は崩壊。ミルトンは「自由共和国樹立の要諦」を書き、君主制度への反対を表明するが、1660年チャールズ二世が帰国して王政復古。1658年、『失楽園』に取りかかる。王政復古後、王党派の報復を受け一時身柄を拘束されるが、友人等の奔走もあり釈放 された。著書には焚書扱いになったものもあり、これ以来政治関係の冊子は公刊しなくなった。
1674年65歳で没。

失楽園

Paradise Lost (1667) 

STORY&REVIEW

1部:
2部:


 明けの明星と謳われた大天使ルシファー。神の右につき従うことのできる最も力を持つ天使であった。その輝く美貌と叡智と力を持つルシファーの慢心と神が人間を創造し、寵愛を注ぎ、なおかつ天使以上の優遇を与えようとした。このことが彼の不満となり、同様にそのことへの不満を抱いていた天使たち、または彼を慕っていた天使たちを集めて天と神に蜂起したがために地獄へと、またサタンと呼ばれるものへ堕ちていく物語。
キリスト教における七つの大罪の中の一つ、傲慢 (superbia)に対応する悪魔となる。

この作品の中で、ルシファーは神の偉大さを知りつつも、服従よりも自由に戦って敗北することを選び、絶望に向かって尚、己の威厳を保持する様は一種の英雄として描かれる。このことが物議を醸し、世間を騒がせた。『言論・出版の自由―アレオパジティカ』を上梓しているが、彼の主張が通ったのは19世紀になってからだったようだ。かの遅咲きクリスチャン、C.S.ルイスもその作品に嫉妬を垣間見せながら徹底批判している。

さらば希望よ、また希望とともに、さらば恐怖よ、/さらば後悔よ。およその善は私にとっては失われた。/
悪よ、私にとっての善となれ。
So farewell hope, and with hope farewell fear,
Farewell remorse; all good to me is lost.
Evil, be thou my good.

第三書第3行 上記は絶望の淵に立ったルシファーの哀切極まる独白。
ピューリタン革命に投身したにも関わらず、クロムウェルの死後、政府の崩壊・失明したミルトンにとって、絶望と共に生きようとするルシファーに自分の慟哭を重ね合わせたのかも知れない。

一方、人間アダムは、イヴの誘惑によって禁断の果実を食べてしまう弱い存在ではあるが、いったんは神の命令に背くものの、自ら罪を犯したことを認め、悲哀を胸に抱いて己の罪の報いを自らの意思によって引き受ける、偉大な魂の持ち主として描かれる。


REVIEW

 この本を手に取ったのは高校2年の夏。以来、これを超えるファンタジーは無いと今でも思っている。レヴューを書くのに久しぶりに再読したが、17歳の時の興奮は変わらなかった。

 キリスト教徒ではない為、サタンというものの存在を実のところ理解していないという点で齟齬が生じるとは思うが、本来的ではないにしろ現在私たちが意識して思うサタンは、このミルトンのルシファーであるように思う。
 人間は誘惑に負ける弱い存在であり、るが、罪を認め自らの意思によって罪の報いを引き受ける。裕福であり、恵まれた裕福な環境にあり、しかも才能に恵まれ、およそ何不自由なく自身の激しい人生を重ね合わせた作品であろうかと思うが、今、様々な教義や主張によって徒党を組み、殺戮や差別・排斥が横行しているが、彼らもまた、サタンと同じ生き方をしている。激しく、また取りようによっては悲しく美しいルシファーの存在がフィーチャーされるが、 弱くとも罪を認め、他を害さない、神が創り給うた人間であり続けたい…ミルトンは最後に生きる希望をアダムに重ね合わせたと私は思う。


平井 正穂 訳
岩波書店
発行: 1981/01
ISBN:4-00-322062-5 4-00-322063-3

   
"Satan and Beelzebub"  Gustave Dore (1866) "Now to the Ascent of That Steep Savage Hill Satan Hath Journey'd On"
Gustave Dore (1866)
 "Pandemonium" John Martin (1841)

LIST