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ポール・アンダースン Poul William Anderson

1749年8月28日 - 1832年3月22日
ドイツを代表する詩人。劇作家。小説家。科学者。哲学者。政治家。
父ヨハン・カスパー・ゲーテと母エリーザベト・ゲーテの長男としてドイツ中部フランクフルト・アム・マインに生まれる。
父方は、葡萄酒の取引と旅館経営で大きな成功を収めた裕福な商人の家柄で,母方は、代々法律家でフランクフルトの市長を務めたこともあるなど地元の名士の出。ゲーテの家庭も裕福であったらしい。
14歳の初恋の相手がグレートヒェンという名。
彼の文学作品・人生観などは広く研究されている。

ファウスト

Faust (1808/1833) 

STORY

<第一部>

 学問の世界と人間の有限性に絶望した学者ファウスト。
生きることの充足感への渇望につけこんだ悪魔メフィストフェーレスは、ファウストの前に現れ、「自分と契約を結べば、この世では伴侶、召使、あるいは奴隷のように仕えて、かつて誰もが得る事のなかった享楽を提供しよう、しかしあの世で再び会った時には、今度はファウストがメフィストに対し同様に仕える」旨の持ちかける。
あの世に関心の無いファウストはこの契約を受諾し、更に「この世の快楽で自分をたぶらかす事ができた時は『留まれ、お前はいかにも美しい』と言うので、それを合図にメフィストに魂を捧げるという約束をする。

メフィストによって20代に若返ったファウストは、敬虔なクリスチャンである少女グレートヒェンに一目惚れし、誘惑し、享楽に溺れていく。グレートヒェンは、ファウストと逢い引きする為に母に飲ませた睡眠薬の分量を誤って母を死なせ、彼女の堕落を怒った兄はファウストと決闘するがメフィストの手助けによって殺害され、ファウストは逃亡する。

一時の気晴らしに悪魔メフィストーフェレスはファウストをヴァルプルギスの夜へと連れて行く。だがそこでグレートヒェンの生霊を見つけて彼女に死刑の危機が迫っている事を知る。グレートヒェンはファウストの子を身籠っていたのであったが、度重なる不幸で狂気に陥り、ファウストの不在中に産まれた赤ん坊を殺害した罪で投獄されていた。

事の有様を知ったファウストはメフィストの力を借りて彼女を助け出そうとするが、彼女は悪魔と手を結んだ彼の助けを拒み、処刑されることを選ぶ。



<第二部>

精霊たちに囲まれ、アルプス山中で眠り続けたファウストは生気を養い、今度は皇帝の家臣としての人生を送る。
帝国の窮状を救おうと、メフィストの吹聴でありもしない埋蔵資源を担保に紙幣を乱発する。
国民はバブリー、国王も満足するが、この二人の術に欲望を膨らませていった皇帝は男女の理想の姿を持つとされるギリシア神話上の人物、パーリスとヘーレナを見たいとファウストに申し付ける。
古代ギリシアの霊はキリスト教に属する悪魔の能力では呼び出せないと主張するメフィストだったが、何としても国王の要求に応えたいと言うファウストを叶えるため虚無の世界から二人の霊を現世へと連れ出す。だがヘーレナの美しさに魅せられたファウストは恋に落ちる。
ファウストの欲望のために悪魔メフィストーフェレスは、ヘーレナをたぶらかし、ファウストの願いは叶えられる。
ファウストとヘーレナは子供をもうけ幸福な生活を送るが、「常に向上の努力を成す者」としてのファウストの気性を受け継ぐ息子はより高みを目指し、戦中に身を投じ、死亡する。ヘーレナは絶望し、ファウストの胸の中で消えてしまう。

愛も美も失ったファウストは山頂に立ちながら今度はメフィストーフェレスに名声を挙げて支配権、所有権を得たい、偉大な事業を成し遂げたいと望む。彼は海の沖で大波が寄せては返し、岸を痛めつける様子に目をつけ、海をはるか遠くに封じてそうした非生産的な活動を止めさせたいと欲求したのであった。メフィストはこれに応じ、折りしもいよいよ帝国の経済が立ち行かないのを見て、皇帝に「僣帝が擁立され反乱が起こっている」と吹き込み、再び皇帝に仕え、戦に勝てば、海岸地帯を報土として貰うことを約束させる。結果、メフィストの魔術で勝利し、恩賞の海岸沿いの土地を得る。

領主となったファウストはこの地を、海水からの侵入を堤防工事と運河によって救い、旧制度から開放された新たな「自由の国土」を建設しようとする。その事業は結実していくが、国内を見通すための望楼建設予定地に住まう老夫婦が立ち退きに応じず、そこに建つ礼拝堂の鐘の音が彼の心を苦しめている事をメフィストに話す。メフィストは老夫婦の立ち退きを執行する役を買って出るが、事は穏便には済まず、訪れていた旅人共々殺害した挙句、放火する。ファウストは怒り、メフィストと彼の手下を追放する。

責任の重さと悪魔と結託し、自然の摂理を曲げこの世の一切を享受してこようとしてきたことへの虚しさに沈むファウストの前に焼け跡から「憂愁」の霊がやって来る。
「憂愁」の霊は何とかファウストの行動と精神を萎えさせようとするが、今や悪魔とも魔法とも手を切ったファウストは「憂愁」に向かって去れと命じる。だが、「憂愁は」立ち去る前にファウストに息を吹きかけ、彼を盲目にする。
盲いても心は晴れやかで、ファウストの活動意欲は旺盛になった。人を増やして工事を急がせ、与えられた自由や安楽ではなく、自然や権力者からの脅威や搾取の無い自由な土地を作り、自由な民と暮らすことが理想になっていく。

つるはしの音が聞こえ、盲いたファウストは手探りで宮殿から歩み出る。人夫らの働く姿、そして理想の土地が築かれる姿を思い浮かべる。だが、そのつるはしの音はメフィストが手下にファウストの墓穴を掘らせていた音だった。
ファウストは、心に映る至福に対し、「留まれ、お前はいかにも美しい」と賭けの言葉を口にする。

賭けに破れたファウストは絶命する。メフィストは契約を履行しようとするが…。

REVIEW

 実際に作家であり学者であり、また恋愛遍歴の多いゲーテが24歳で書き始め、83歳で他界する1年前に完成したという作品。彼の人生そのものの作品とも言えなくもない。

この作品が書かれた当時とは比べものにならないくらい開放的で己の享楽のために行われる行為も雑多、聖域も規範も遥かに損なわれた今を生き、信仰と呼べるものを持ち合わせていないため、「こんな程度」と思う件もあるが、人間の欲望と感情のいくつかの象徴を生きるファウストの姿にふと自己投影される。

有限の時の中で求めるものが肥大するばかりで、無いことを損なわれることを受容できないものは、後半「憂愁」とともに現れる「欠乏」「罪責」「困窮」の霊に取り込まれる。これはとても判りやすい比喩だ。
最終的に世の中のために…と思う気持ちで完結するなら、単に贖罪や慰めを得る自己満足でしかないかも知れない。
ゲーテがこの作品の最後で与えられたものではなく、自らの手足でそして、個人的でなく誰かと共有できる理想を創ろうと目指していることこそが、求めるべきものである…とする態度をファウストに与えたことは真実清々しい。

祈りも告解もこの本には出てこない。
傲慢で酷薄、悪魔と契約したほどの男が何故救済されるか。
自己を超越し、人のために尽くす行為が真に満足であったから…それは信仰と同等に貴いものであったからなのであろう。ここにこそ、ファウストという作品の意味があろうかと思う。

戯曲であるのでそれなりに読みづらい、ギリシャ神話に飛んでみたり、古代史を思い出さなくてはならなかったり、暗喩が豊富で巻末注釈を常に捲りながらで、とにかく神経を使う。
だが、読み終えた後の妙な達成感はこの本の締め括りとともに心地よい。

  • 第一部
  • 第二部
  • Faust (Oxford World's Classic)
  • Faust (Oxford World's Classics)
  • ファウスト Blu-ray

相良 守峯 訳
岩波書店
発行: 2001.01-02
ISBN: 4-00-324062-6 第一部  4-00-324063-4 第二部
文庫:387p(1) 542p(2)

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