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観相官という職業がある。 人の身体的特徴を観察・計測することによって能力・出生・性格や犯罪歴等々、あらゆる隠された事実を知ろうとする、 一種のプロファイラーである。
主人公クレイはその冷徹な観相官の権威。 物語はこの男の一人称で語られる。
世界は魔法を駆使し、同時に偉大な科学者でもある独裁者ドラクトン・ビロウの思念に拠って創られている。
クレイはこのビロウの片腕だが、根底ではビロウに恐怖とドラッグによって逃れがたく支配されている。
クレイはビロウの命により、盗まれた不死をもたらす「白い果実」を捜すため属領アナマソビアへと赴く。
およそ知的活動とは無縁であるアナマソビアの中で、独学で観相学を学んだという美貌の娘アーラを助手にし、 村人を一人残らず観相することで、犯人を探しを開始する。
だが、教会奥に眠るミイラを観相したことがきっかけで、絶対的に依拠していた己の理論にほころびが生じる。
彼は観相能力を失う。
権威を保持するために取り繕い続ける行動の結果、 彼は最も愛する者の、その愛した理由の所在そのものに傷をつける。
属領での決定的な失敗によってクレイは罪人となって流刑地へ送り込まれることになるのだが、 そこはかつて、自分が観相することによって送り込まれた恩師らが苦役の果てに死んで行った場所でもあった。
流刑地ドラリス島の採掘地、その熱気と硫黄の臭気の中で クレイは燃えるような呵責と内部に残る人間性に目覚めて行く。

結局のところ、冷徹非道な男が拠って立つものを喪失し、自己回復して行く物語なのであるが、クレイの内面変化の必然性が今一つ短絡的だ。
白い果実のもたらす何かによって弱化する支配者ビロウに関しても陳腐で物足りない。
しかし、それでも尚、精緻に作り込まれた人間関係や舞台世界の魅力に惹かれずにはいられないし、山尾悠子氏のリライトによる日本語は、ともすればジャンクな場面ですら硬質で冷たい空気感をもたらし、とても美しい。
青い鉱石となる坑夫。翼を持つ魔物。人狼となる少女。昼と夜の顔を持つ看守。ピアノを弾く自虐的かつ冷酷な猿…異形や常ならぬものでありながら、いくつかの人間のステロタイプにも取れる脇役を配する。
ビロウが創ったクリスタルのように色彩鮮やかかつ、多面的な意味を放ち、証されない楽園の存在を置き去りにして物語が終わる。
本書は3部作となっており、本書につづく 2部"Memoranda",3部"The Beyond"、何れもクレイが主人公のようだ。
- 金原瑞人・谷垣暁美訳/山尾悠子 訳
- 国書刊行会
- 発行:2004/08
- ISBN: 4-336-04637-9
- 単行本/349p
- 1998年度世界幻想文学大賞受賞
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