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E.R.エディスン Erick Ruxker Eddison

ウロボロス |


 ウロボロス

The Worm Ouroboros (1922)
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contributor
Leon

修羅国(デモンズランド)と魔女国(ウィッチランド)は、我こそ覇を唱えんものと歴史を通じて争い続けている世界を二分する強国。
カルシー暦399年、魔女国王ゴライス十一世は修羅国に対して使者を立て、突然臣下の礼を取るように要求した。

尚武をもって鳴る修羅国の武将達はこの仕打ちにいきり立つが、若いながらも既に賢王として名高い修羅国王ジャスは、使者の役割が挑発であり、修羅国に先に手を出させて大義名分を作ろうとするゴライス十一世の魂胆を見破る。

ジャスの提案した個人的な決闘の申し込みは、力自慢である魔女国王の自負心を煽ることに成功し、中立地域であるフォリオット国の宮廷において、ゴライス十一世とジャスの弟の一人であるゴールドリイ・ブラスコ卿が試合うことに。

結局はゴライス十一世が命を落とすことになるが、正々堂々の勝負であったにも関わらず、時勢がら国力の上回っている状態にある魔女国では納まりがつかず、新たに王冠を継いだゴライス十二世は、海上遥か、フォリオット国からの岐路にある修羅国の艦隊に対して魔物を遣わしてこれをほぼ壊滅させ、更にはゴールドリイを拉致し何処かへ幽閉してしまう。

海原の只中で盟邦たる悪鬼国(ゴブリンランド)の王ガスラークに助けられたジャスは、卑劣な裏切りに血気逸り、盟友であるブランドック・ダーハ卿達と共に少数の兵を頼みとして戦いを仕掛けるのだが・・・

「雄渾」の一言に尽きる物語。

比肩し得るのは神話や古典の軍記物語ぐらいしか思い浮かばない。

登場人物の造形もそれぞれに素晴らしいのだが、特筆すべきは”変節漢”グロ卿だろう。

軍師として勢いのある国から国へ転々としているように見られているが、実のところは劣勢の国家に肩入れしてしまう判官贔屓。

世間の評判とは異なり、実は彼が肩入れした国が隆盛となっているのだ。

どちらかと言うと腕力を頼りにする武将が多い中で、その知略や親友の奥方に対する密かな恋慕など、彼の登場する場面は戦闘が主体となっている物語の中で一際異彩を放っている。

物語の舞台を水星としたり、更に導入部がレシンガムなるイギリス人が見た夢であるかのように書かれているのは、出版当時(1922)このような物語(異世界ファンタジー)が受け入れられ難いことを予測したための譲歩に思える。

原文に併せて邦訳も擬古文となっているため読みにくいと感じる人もいるかも知れないが、読み進めるうちに文体と作品の一致感を覚えるに違いないく、神話や古典を彷彿とさせる要因の一つにもなっているようだ。

更にエディスンは、冒頭で固有名詞の発音などに関する前書きを記しており、巻末には物語世界の年表(!)まで付けている。

惜しむらくは地図が無いことで、多数の国や都市が登場して人々が往来するだけに残念でならない。

物語文学の愉しさを改めて感じさせてくれるこの作品は、異世界ファンタジーの先駆けであると同時に一つの完成形と言えるのではないだろうか。

三国志演義や田中芳樹氏の作品などがお好みの方にもオススメ。

  • 木原 悦子 訳
  • 出版: 原 書房
  • 発行: 1997/04
  • ISBN: 45-620-2904-8
  • 四六判/ 539ページ