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ドナ・W・クロス Donna Woolfolk Cross

1947年生まれ、アメリカの作家。
アメコミ業界の立役者ドロシー・ウールフォークと小説家のウィリアム・ウールフォークの娘。
ペンシルバニア州立大を1969年卒業後、広告代理店や出版社の編集に従事するも1972年カリフォルニア州立大ロサンジェルス校で文学・創作に関する修士取得。翌年結婚し、ニューヨーク州シラキュースのオノンダガコミュニティカレッジで創作の教職に就く。その後作家業に専念。4本のノンフィクションと「女教皇ヨハンナ」を書いている。

女教皇ヨハンナ

Pope Joan 

STORY

 中世…この迷信深く、無知で暗い時代、女は不浄で罪な存在であった。

 9世紀のドイツ、小さな村に生まれたヨハンナは、賢く、知への渇望と好奇心に満ちた少女だった。
 女子が学問をすることなど自然の摂理に反することであったこの時代に、彼女の性質は異端であった。
兄のマティアスはヨハンナの気持ちを理解し、勉強を教えてくれるが病死。残る次男のために父は教師をつけるが、その師は次男ではなくヨハンナの才能を認め、学問を授ようとするが、片田舎の司祭である頑迷な父はこれを受け入れることができない。
 ところがある日、師のつてでヨハンナは次男とともに学校に入学することとなった。

 学校で唯一の女子としていじめにあうが、一方で聡明な彼女に興味を持ち、良き理解者であるゲロルトに庇護されながら過ごすヨハンナ。だが、他族の侵攻により、村が壊滅する。逃げまどいながらゲロルトの娘や妻が殺され、凌辱される姿を見る。死屍累々とする中、奇跡的に助かった彼女は死んだ次男を見つける。彼女は兄の服を身につけ、ヨハネスとして生きる決心する。

実在したといわれる伝説の女教皇をモデルにクロスのイマジネーションがヨハンナに息を吹き込む。
13世紀のポーランドの年代記作家オパヴァのマルティンが残した記述に沿って創作されているようで、その時代背景・ヨハン・アングリクスの教皇在位期間、教皇位に就く経緯、更にサン・ピエトロ大聖堂からサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂へ向かう途中の路上での出来事は、これを全て踏襲している。


REVIEW

 ラブストーリーである。有体に言ってしまえば有能な女子が恋と志の板挟みになって苦悩するという物語。
だが、読んでいて苦しい。
苦労して手に入れたものであればあればある程、失いたくない思いは強くなる。高位に就けば就くほど、自分の思いとは別に状況が状況を作り出す…、そんな経験は少しは地位にありついた人間であればご存知であろう。
努力すればどんな職業に就くことも可能な現代でも、女が何かをやり続けるには少しばかり「男装」しなければ、つまり女性である部分を犠牲にしなければならない場合もある。性別分業が薄れてきていても出産だけは避けられない。男性以上に選択肢とその結果による重みは大きい。女性であるが故の幸福と同時に女性であるが故の苦しみもまたヨハンナの時代と変わらない。
程度こそ違え、女性が向上していくこと、権威や地位を獲得していくことは家族や愛を犠牲にして行かざるを得ないことととほぼ同義であるのは現在でも変わらないところであり、齢を重ね、自らが果たせなかった願望を子に託したり、傷つきながらも自己実現している女性をその道を選ばなかった同性が嫉妬によって敵となるヨハンナの母のように、立ちはだかる壁が同性となることも昔も変わらない。
わが身を偽らねば実現できない、ブレイクスルーできないものもある。

痛切に私の胸に浮かんだ言葉は「潮時」。全てを手に入れることなどどのような人間にも叶うことでもないのに、人は欲深い。
何度もヨハンナにも幸福を別な道を手に入れられる分岐点があった。
『もう充分頑張った…』そう思えると時があったのに状況が彼女を担ぎ出す。『もう少しだけ…』、そして彼女はすべてを喪失う。
漸く生った実を収穫するのは当然。だが、ほどほどに満足を。

  • 女教皇ヨハンナ(上)
  • 女教皇ヨハンナ(下)
  • Pope Joan (Ballantine Reader's Circle)

阪田 由美子 訳
評論社
発行: 1989/09
ISBN : 4-566-02088-6(上) 4-566-02089-4(下) 四六判 / 405p(上) 342p(下)

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