バーナード・コーンウェル Bernard Cornwell

バーナード・コーンウェル1944年2月23日 英ロンドンで生まれ。ロンドン大学卒。
学生時代にウエリントン公爵(アーサー・ウエルズリー卿;1769~1852)とその軍に関する調査研究を始める。これが後の代表作「シャープ・シリーズ」の元となる。
BBC放送のTV部門でプロデューサー、時事問題担当のキャップ、テレビ・ニュースの編集員などを務めた後、1980年 36歳で作家として独立。アメリカ人女性と結婚後米在住。
代表作: 『炎の英雄シャープ・シリーズ』 『嵐の絆』 『反逆』など。
『小説アーサー王物語(三部作)』の第一巻『エクスカリバーの宝剣』は51歳の時のもので、以降 『巨石神殿ストーンヘンジ』など、イギリス古代史に興味を持ち始めている様子。
公式サイト:http://www.bernardcornwell.net/




エクスカリバーの宝剣―「小説 アーサー王物語」1部

The Winter King (A Novel of Arthur1)


上巻

下巻

復刊投票

The Winter King: A Novel of Arthur
STORY かつてアーサーに忠誠を誓い、共に戦った老修道士ダーヴェルが過去を記していく形で物語は進行する。
概ね5世紀から6世紀のブリタニア。ローマ人が去った後も平和とは程遠く、東部からサクソン人が襲撃を繰り返す。いがみあうブリタニア諸王国もサクソン人の侵略から自国を守るため団結してはいたが、その団結を束ねていたドゥムノニアのユーサーは嫡男を戦で失い、足萎えの孫モードレッドを残し没する。
ユーサーの庶子であるアーサーが世継ぎモードレッドの後見人となり、ユーサー亡き後ドゥムノニアを虎視眈々と狙う諸国との和平に心を砕く。

モードレッドの母・ユーサーの未亡人ノルウェンナはシルリアの王ギンドライスと再婚し、2国の関係は強固になった様に思えたのも束の間、ギンドライスは南方の遠征から帰還したその足でドゥムノニアの玉座に跪くノルウェンナを殺害、各国はますます不穏当になっていく。
モードレッドが成長するまでドゥムノニアを他国に侵されぬまま世継ぎに手渡したいアーサーは強固な同盟を目的に、ポウイス王ゴルヴァジドの姫カイヌインと婚約する。だが、婚礼前夜、宴席でアーサーは赤毛の女グゥネヴィアと激しい恋に落ちる。

ポウイスはドゥムノニアの壊滅とアーサーの死を各国に呼びかける。

REVIEW  絢爛豪華な騎士物語として世に知られているアーサー王伝説。
しかし、このアナザーストーリーは凡そ当時の時代背景を可能な限り忠実に物語上に表して行こうとする意欲が認められ、宗教や戦闘形態、集落の様子など、随分綿密に調査したのだろうと舌を巻く程詳細に活き活きと描かれている。
人間模様も泥臭く、著名なアーサー伝説のマイルストーンのように貴族的な格調とはほど遠い。

 コーンウェルの描写は徹底的にリアリスティック。甘ったるいものは差し挟む余地の無い。憎悪と狂気が雪崩打つ。それだからこそ、圧倒的な存在感と現実味を以て胸に迫るものがある。
 登場人物も実に個性的で、物語に立体感を持たせている。そもそも英雄らしい人間は一人も無く、嫉妬と憎悪に塗れ、後悔と贖罪に苛まれる。だが、尋常ならざる状況・心境下で、まるで泥の中の砂金のように高潔で美しい人間の心情や行動が煌めいてもいる。

ただ、ご贔屓の登場人物が「こんな風に化けた!」とガッカリされる読者も出てくるかも知れない(笑)
特にランスロットのぼろくそぶりは笑える。
女性の登場人物、ニムエとグゥネヴィアも興味ある所。手段も目的も違う二人の女たちは、己の目的を果たす執念と強欲さは嫌悪を通り越して天晴れ。

視点は常にダーヴェルのもの。だから、彼が主人公と言ってもよい。
ドルイドの死の穴から逃げ、マーリンに拾われた一介の見習い僧がアーサーやニムエ、そして多くの友と戦いの中で成長し、ダーヴェル卿となって行く様も面白く読める。

失礼を承知で言わせてもらうと、当該出版社からこんな秀作が出ていたとは、驚き。

  • 木原 悦子 訳
  • 出版: 原 書房
  • 発行: 1997/04
  • ISBN:45-620-2904-8
  • 四六判/ 539ページ

神の敵アーサー ―「小説 アーサー王物語」2部 おすすめ

Enemy of God  (A Novel of Arthur2)


神の敵 アーサー〈上〉―小説アーサー王物語

神の敵 アーサー〈下〉―小説アーサー王物語

復刊投票

Enemy of God: A Novel of Arthur (A Novel of Arthur: The Warlord Chronicles)
STORY アーサーがカイヌインとの婚約を破棄しグウィネヴィアを娶ったことにより再び乱世に突入するが、ラグ谷の激戦でポウイス王ゴルヴァジドを敗り、何とかツケを払ったアーサー。
実質ブリタニア南部の指導者になったが、台頭するキリスト教を支持する諸国と狂信者は異教徒であるアーサーを排し、キリスト教の王を頂こうとアーサーに対する妬み深き輩と結託。
アーサーの周囲に生じた小さなほころびに付け込み、静かに陰謀が巡らされて行く。

一方、いつまでもユーサーとの宣言に縛られ、冠を頂かずささやかな引退生活を夢見るアーサーにグウィネヴィアはイシス教の女神に心酔して行く。結果、アーサーにとって最大の苦悶と傷を与えることに…。

REVIEW 一部の表紙とがらっと趣が変わり、一瞬別なシーリズかと見間違うくらい。邦題もまとも(?)になって安心してページが捲れる(笑)

聖杯伝説のもととなった大釜の探求、トリスタンとイゾルデの悲劇なども盛り込みながら、権力抗争と戦場の惨劇が畳みかけるように綴られていく。圧倒的な迫力と当時の歴史・風俗・人物設定が細やかであるばかりでなく、底辺に流れるのは拠って立つものを欲する人間の脆さや、法あるいは誓いを、例えそれが魂を粉砕するほどの悲しみを犠牲としても守ろうとする精神と理性の営みが読みとれる。それが凄惨な描写に奥行きを持たせ、皮肉にもより現実味を持たせることに有効に働いている感がある。

骨肉相食む世情の中にあって、ダーヴェルの父がサクソンの王エレであることが判明し、敵として相対峙する親子の複雑な愛情も胸を拍つものがある。

また、グウィネヴィアの描かれ方が面白く、ランスロットとの不貞の理由も彼女の権力欲から生じたものとなるのだが、その欲深い女を一刀両断しない。コーンウェルのような男クサイ作品を描く作家は総じて女性の描き方が薄っぺらになりがちだが、どうしてこのフェミニズムの権化のような女にも愛情深い目線で語っている。対するカイヌインが多分理想型なんだろうけれども(笑)

  • 木原 悦子 訳
  • 出版: 原 書房
  • 発行: 1997/04
  • ISBN:45-620-2904-8
  • 四六判/ 539ページ

エクスカリバー最後の閃光 ―「小説 アーサー王物語」3部 おすすめ

Excalibur (A Novel of Arthur3)
上巻

下巻

絶版本を投票で復刊!


Excalibur: A Novel of Arthur
STORY 混迷を極めるブリタニアを救うべく、古代の神々を召還させようとしたマーリンとニムエであったが、マーリンの一抹の情により失敗。ニムエとマーリンは姿を消す。

ランスロットの謀反を挫き、ささやかではあるが常の時代より平和な時を送っていたアーサーたち。
だが、ランスロットやモードレッドの野心は密かに時が満ちるのを待っていた。
再びサクソンからの襲撃を受け、戦火に見舞われた時、そこにはサクソンと手を組んだランスロットがいた。
更に、敵地に居た筈のモードレッドが偽の情報を流し、疲弊したアーサー軍に攻撃を掛ける。

時が満ちるのを待っていたのは戦士や権力に取り憑かれた者ばかりではなかった。
土着の神々によって昔のブリテンを取り戻す儀式をニムエは完遂しようとしていた。儀式に必要なブリタニアの秘宝の1つ、マーリンがアーサーに与えたエクスカリバーと王の子、つまり実質王であるアーサーの嫡男グウィドレを手に入れるため、最後はキリスト教ではなく、アーサーたちを苦戦から救い出したドルイド教が敵となって立ちはだかる。

REVIEW どの道、ブリタニアの黄昏を知っている未来の人間にとって、如何なる幕引きとなるかアーサーやダーヴェルに思い入れが深くなりすぎた私は、残りページが少なくなる程、胸が痛んだ。

アーサー王伝説がブリタニア出のものではあっても我々が知るアーサー王伝説が後の世にキリスト教とアングロサクソンによって作り出された伝説である。
サクソン人(現英国人の末裔)であるダーヴェルが人目に付かぬようサクソン語で書いていく。それがブリトン語に翻訳する際に改編されて行くのを承知でダーヴェルは綴っていた。この姿はアーサー王伝説が生まれる経過そのもののような気さえする。

瀕死の重傷を負いながらアーサーたちが乗った船を見届け、誓いと共にエクスカリバーを海に投げ込むダーヴェルの姿は涙を誘う。ニムエが絶叫する。

ブリテンの神々と英雄たちの終焉である。

  • 木原 悦子 訳
  • 出版: 原 書房
  • 発行: 1998/12
  • ISBN: 4-337-5978-1
  • 四六判 / 255p