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マーク・チャドボーン Mark Chadbourn

1960年1月13日―。 英国南ダービーシャー生まれ。経済学を学び、『タイム紙』を含む主要6紙の記者をしていた。
作家のしてのキャリアは1990年に"Six Dead Boys in a Very Dark Worldという短編が、『Fear magazine's』の最優秀新人賞を得たことからスタート。http://www.markchadbourn.net/


フェアリー・フェラーの神技

The Fairy Feller's Master Stroke  (2002)

STORY

 主人公ダニーは幼い頃から早熟で他人より少しばかり出来が良い。
早熟な子どもにありがちな大人の期待を演じながら、同世代の人間と精神的な疎外感に苛まれる。
経験も浅いうちから思考ばかりが潜り、「仔細」なものへのこだわりと孤独が増殖して行く。
 現実との疎外感は彼を蝕み、空虚さだけが自分を構成しているように思えてくる。
 リチャード・ダッドの絵を眺めているうちに、 ダッド自身に己を重ね合わせ、次第に幻想と現実の境界を見失って行く。
 ダニーはダッドの足跡を辿ることによって確かな自分の真実を見つけられると信じ、旅に出る。

REVIEW

僅かスケッチブック1枚の大きさに細密画の如く緻密に描き込まれた絵。
細部を執拗なまでに描くのは精神を病んだ人間にはよく見られることのようだ。
 リチャード・ダッドという実在の狂気の画家が描いた「フェアリー・フェラーの神技」 を軸に、現実世界の虚無に陥る主人公が、次第に崩壊、そして再生していくあり様を描いている。
大抵は自己崩壊する前に、現実とどこかで自分をすりあわせ、適当な居場所に落ち着くために自分を評価するものだが、ダニーはそれを見つけれず、早熟な子どもの頃のままの感性で大人になってしまったようだ。

結論はありきたり。やはり自己の再構築はこれか…と。
 つまり、幸せの青い鳥である。
しかし、だ。
 私たちも共感によって、対象の作品にのめりこむということはあるが、 この本を読んでいて、一つの物語にのめり込むというのではく、 非常に近い友達の告白を聞いているような、あるいは自分の封印していた日記を誰かに音読でもされているような、 自分の内面に語りかけてくる不思議な魔法が存在する。

この類の共感を得なければ、作品としてはつまらない。 チャドボーン自身の私小説であるような気もする。

バベルプレス
木村 京子 訳
発行: 2004.11
ISBN: 4-89449-031-5
2003度英国幻想文学大賞短編部門受賞