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ポール・アンダースン Poul William Anderson

 1926年11月25日 - 2001年7月31日。
 米カリフォルニア州オーリンダ生まれ。
 北欧系で、名のPoulは英語名のPaulとは異なる。姓はアンダーソンと表記することもある。
グレッグ・ベアは娘の夫。
 ミネソタ大学で物理学を専攻。1947年、大学在学中に『アスタウンディング』誌に発表した『明日の子ら』(F・ウォルドロップと共作)で作家デビュー。長編第一作は『脳波』。多作かつ「はずれのない作家」と言われる。ハードSFの書き手として知られ、相対論的効果を正面から扱った『タウ・ゼロ』は評判となった。「リアリティーを高めるため、常に五感のうちの三つ以上に言及する」という独自の手法を持っていた。ヒューゴー賞作家。

折れた魔剣

The Broken Sword (1954) 

STORY

 デーン人のオルムは、ヴァイキング船を仕立てて故郷のユトランド半島を後にした。

イングランドを荒らし回った末に、その地にあるデーンローに居を構えようと、土地を得るため地主一家を殺害する。
この時、ただ一人逃れた一家の母親は、オルムに復讐すべく、彼に呪いをかける…『オルムの長子が人間世界のかなたで育てられ、一方オルムは将来彼を八ツ裂きにするであろう狼を育てる』──と。

 やがてその土地の強力な首長なったオルムは、イングランドの州長の娘イールフリーダと結婚し、男の子をもうけるが、森の魔女にそそのかされたエルフの大守イムリックが、オルムの子供をさらい、自分とトロールの女奴隷との間に儲けた子供を代わりに置いてくる。
―― そそのかしたその魔女こそ、誰あろうオルムに呪いをかけたあの母親であった。

  オルムの子として育った取替え子ヴァルガルドは、身の内に滾る凶暴な衝動につき動かされてオルムの一族を皆殺しにし、義理の妹二人をさらって、トロールの戦列に加わるためにトロールハイムを目指す。

 一方 オルムの子スカフロクはエルフの国アルフハイムで幸福に育ち、妖精王によってエルフのなかに身を置くことを正式に認められ、エルフの仇敵であるトロール族との戦いに身を投じる。
こうして二人はあいまみえ、スカフロクはオルムの最後に生き残りの娘、フリーダと出会う。

 アサ神族の主神オーディンの思惑動くなか、エルフとトロールの戦いを背景に、スカフロクとヴァルガルドは更なる悲劇に向かって突き進んでいく。


REVIEW

 タイトルの「折れた魔剣」とは、オーディンがスカフロクに与えた「テュルフィング」という名の剣のことで、オーディンはこれを再び鍛え直して、アサ神族の敵である巨人族と通じているトロールを駆逐するのに使わせようとした。この剣は、いったん抜いたら相手を殺さずには済まないという魔剣。

 スカフロクとヴァルガルド…刺違えることになった二人は、ヨーロッパの伝承にある、妖精の子などと人間の子供が密かに取り替えられる、いわゆる『取り替え子』な訳で、本来在るべき場所に存在できなかったがために悲劇に見舞われていく。 スカフロクの代わりとしての生きる己の価値と存在に苦しむヴァルガルド。
 他方、幸福なエルフの世界に住まいながら温かな血のぬくもりを求めて禁断の契りを結ぶスカフロク。
 神々の戦いや運命に翻弄されながら、悲劇であっても己の存在と幸福を求める姿はツボ中のツボ。神話をモチーフにする物語の王道。

 エルフとトロールの戦では、バイカルのデモン族、中国のシェン族などに加えて、日本の鬼も刀を持って参戦(笑)

 1954年と言う年は、奇しくも海を隔て「指輪物語」が上梓された年である。2作品とも北欧神話に色濃く影響を受け、とりわけ、トールキンの「指輪物語」のノートでもあった「シルマリルの物語」と共通するエピソードを挿入する。
 そしていずれも、鈍い色彩の重くるしい背景と厳然として変え難い宿命の中で、生命の熱感や煌めきが迸る。
 比較しながら読めたのは愉しかった。

 因みに後発のスーザン・プライスの「エルフ・ギフト」と比較させることが多いようだが北欧神話を題材にしているというだけで、勘弁してくださいというほど別物。

関口 幸男 訳
早川書房
発行:1974/07
ISBN : 4-15-011519-2
文庫 / 445 p

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